天草オリーブ園AVILO


すべては緑色に輝く1滴のため

天草とオリーブとのであい

昭和8年、フランス人宣教師ガルニエ神父が地元信者と協力して建てた大江教会。 ■昭和8年、フランス人宣教師ガルニエ神父が地元信者と協力して建てた大江教会。
2010年にオープンした「天草オリーブ園AVILO」。 ■2010年にオープンした「天草オリーブ園AVILO」。

およそ400年前、ポルトガル人のルイス・アルメイダ神父ら宣教師の布教活動によって島民の多くがキリスト教徒になったという天草。「コレジヨ」という宣教師の学校が建てられ、ヨーロッパから帰国した天正遣欧少年使節団の4人も、天草のコレジヨでしばらく過ごしたと伝わる。
こうして16世紀以降、キリスト教を通じた南蛮文化との接点が色濃く残った天草の地に、いま再び新たなヨーロッパ文化の香りが漂い始めた。
1,300本のオリーブの苗木が天草市の丘陵地に植えられ、「天草オリーブ園AVILO」が開園。同じ頃、天草市も「オリーブの島づくり」をテーマにした地域振興プランをスタートさせたのだ。

「2,000ヘクタールという耕作放棄地をなんとかしたい、ということで、地元農家と競合せず、観光面でも期待できそうな『オリーブ』に着目しました」と教えてくれたのは、AVILOを経営する株式会社九電工のオリーブ事業推進グループ長、伊藤正量さん。社会貢献を兼ねた地域密着の新規事業として、まだ九州では先行事例がなかったオリーブ栽培に着手した。
「その昔、ポルトガルから伝来したオリーブオイルのことを『ホルトの油』や『ポルトガルの油』と呼んでいたようで、そういう意味でもポルトガルと縁の深い天草とオリーブは相性がいいと考えたんです」(伊藤さん)


オリーブ園の責任者、清田隆二さん。 ■オリーブ園の責任者、清田隆二さん。

実際の農園運営を任されたのは、もともとご実家が農家だったという事業所長の清田隆二さん。しかし同社で長年サラリーマンをしていた清田さんにとって、天草も果樹栽培もまったく初めて。しかも農園に来てみると、粘土質の土地で水はけも良くない。順風満帆とはいかないスタートだった。


天草でのオリーブ栽培

木の周囲に敷き詰められた白い石と、全部の木につけられた支柱。この園内を散策できる体験メニューもある。 木の周囲に敷き詰められた白い石と、全部の木につけられた支柱。この園内を散策できる体験メニューもある。 ■木の周囲に敷き詰められた白い石と、全部の木につけられた支柱。この園内を散策できる体験メニューもある。

オリーブ園を任された清田さんと農園スタッフたちの試行錯誤の日々が始まった。
「可能な限り土壌を入れ替えたり、苗木の周囲に2mほど穴を掘り軽石を詰めて水はけを良くしたり、白い石を敷き詰めて照り返しによる日照量アップを図ったり。とにかく良いと思えることはすべて試しました」と清田さん。
国産オリーブの9割を占める一大産地、小豆島へも勉強に行ったが、やはり気候も地勢条件も異なる温暖多湿な九州での栽培には、そのまま当てはまらないことも多い。

さらに厄介なのが、台風。オリーブの根は浅いため、強風が吹くとすぐに倒れて、木そのものが弱ってしまう。事実2014年の台風では300本が倒され、その後2〜3年間は収穫できる実も極端に減ってしまったのだ。

「これからは絶対に倒れさせてはいけない!」すぐに対策を打った。本場ヨーロッパの農園ではまず見かけない「支柱」を、より強固なものへ一新し、1本1本の苗に取り付けていったのだ。その甲斐あって、以後大きな被害はなく、2017年は前年の3倍にまで収穫量を増やすことができた。

自身の畑でもオリーブを育てる共同研究農家でもあり指導員も務める久保俊治さん。 ■自身の畑でもオリーブを育てる共同研究農家でもあり指導員も務める久保俊治さん。

そんな奮闘と並行して、「オリーブの島づくり」を目指す天草市はオリーブ振興協議会を立ち上げ、栽培を希望する農家や個人に指導員を派遣する取り組みを始めていた。
久保俊治さんもそのお一人。定年までJAで果樹の指導員をしていたが、オリーブを扱うのは初めて。大規模農園であるAVILOと、小規模栽培農家との橋渡しをしながら、天草に合う育て方を探っているという。
「AVILOと一緒に、天草でのオリーブ栽培を推進してくれる『共同研究農家』が現在68軒あります。おのおの異なる条件のもとで試行錯誤して育てた結果がそのまま、天草オリーブ栽培のノウハウとして蓄積されてきています。私自身、以前は全然知らなかったオリーブオイルにも魅せられてしまい、ここがオリーブの島になっていくのが本当に楽しみ」と久保さん。

清田さんも「市内の共同研究農家さんと一緒にオリーブオイルを作っている」と語っていた。それは、互いに栽培法を探求するだけでなく、そのままでは売りづらいオリーブの実を各農家から買い取って、AVILOの搾油機でオリーブオイルに変えて販売しているから。製造も自社で完結させるのではなく、ボトリングは天草島内の工場へ委託。地域密着事業として企業と地元が協力し合うことで、天草が誇る産業へと成長してほしいという思いが根底にあるのだ。

オリーブを育て(1次産業)、加工して製品にし(2次産業)、それを流通・販売させる(3次産業)だけでなく、観光客向けの農園ツアーや体験まで行なっているAVILOは、地域を多方面から元気にすることができる理想的な6次産業のモデルと言えるだろう。

24時間以内に搾るオリーブオイル

4種のオリーブオイルの香りと味を比較できるテイスティング。 ■4種のオリーブオイルの香りと味を比較できるテイスティング。

「A、B、C、D、どれがおいしいと感じましたか?」
AVILOのスタッフはオリーブオイルソムリエの資格を持ち、お客も無料でテイスティング体験ができる。日本でもずいぶん一般的になったオリーブオイルだが、味見して買う機会はなかなかない。
AVILOでは天草産だけでなく、イタリアやポルトガルなどの提携農園で栽培されたオリーブも使ったオリジナルオイルも販売していて、テイスティングではそれらの微妙な味の違いを感じることができる。

なお日本で「エクストラバージンオリーブオイル」として売られていても、国際基準による格付けではないため中身にはかなりばらつきがあるようだ。AVILOの製品はすべて酸度0.8以下という国際基準を満たした、正真正銘のエクストラバージン。果実を搾っただけの、まさに“オリーブジュース”なので、「さらりとして油っぽくない」「スパイスみたいにピリッとした味」「草のような青い香り」…そんな表現がピタリとくる。

農園横にある南欧風の建物が搾油場。シーズンになると青リンゴのような芳香で満たされる。 ■農園横にある南欧風の建物が搾油場。シーズンになると青リンゴのような芳香で満たされる。

「実はオイルの品質の60%は搾油過程で決まるんです」と清田さん。中でも重要なのが「攪拌(かくはん)」。1個1個手作業で大切に摘み取られたオリーブの実は、そこから酸化が始まってしまうため、できる限り早く加工する必要があるが、AVILOは農園のすぐ横に搾油場があるため、収穫後すぐに搾油を始められる。
搾油場に運ばれた実は洗浄後、粉砕。その次が攪拌である。
「攪拌し練り込まれていくオリーブペーストを見ながら、ここがベスト!というタイミングで遠心分離機にかけて油分を取り出します。その練り込む時間がとても重要なんです。何分間練ればOKという決まりはなく、その年の気候や収穫前の雨の量などでも実の状態が変わるので、そろそろ油が浮き出てきたなという瞬間を目で見て判断しています」

■ほのかに色づき始めた緑色の実を収穫し、搾油機にかけてオイルを搾り出す。
ほのかに色づき始めた緑色の実を収穫し、搾油機にかけてオイルを搾り出す。

本場ヨーロッパの農園に毎年足を運び、オリーブ栽培から練り込みのタイミングに至るまでを体得していき、今や熟練したオリーブオイル職人となった清田さん。
「毎年10月の初搾りの時は緊張します。今でも搾油されて出てくる最初の1滴を見ると泣いてしまいます」
 開園して8年とまだ若いオリーブ園で採れる実は1本あたり平均2kg。そのうち搾油できる油分は6~10%とごくわずかなので、丹精込めて育てたかわいい実が無事オイルを搾り出してくれた瞬間、一年分の苦労が一気に喜びに変わるのだろう。

プレミアムな天草産100%オイル

高浜焼の特製容器に入った「天草100%リミテッドエディション」。 ■高浜焼の特製容器に入った「天草100%リミテッドエディション」。
高級白磁原料として有田や伊万里でも使われている天草陶石。。 ■高級白磁原料として有田や伊万里でも使われている天草陶石。

まだまだ希少な100%天草産のオリーブオイルは、搾油された後2〜3ヵ月間タンクで落ち着かせてから瓶詰めされる。今年(2017年度)も2月中旬に、「天草100%リミテッドエディション」が300本限定で店頭に並んだ。なんとそのうち200本は1週間以内に売れてしまったという。昨シーズン購入しそのおいしさに感動した方々が、今や遅しと待ちかまえていたのだ。この特別なオリーブオイルは、クルーズトレイン「ななつ星in九州」の車内でも提供されている。

2017年度の天草100%オイルは、ラ・フランスの香りとクルミの甘みと苦味を感じさせる余韻が特徴。そして前年同様、容器は天草陶石を使った地元「高浜焼」のオリジナルボトルが使われている。

天草市西部、東シナ海に面した高浜という地域周辺では、古来から良質な磁器の材料である天草陶石が多く採れた。そして18世紀から当地でも窯が開かれ、有田焼同様、ヨーロッパで人気があった色絵ものなど、時代に応じてさまざまな焼き物をつくってきたという。明治中期に一旦途絶えたものの、昭和27年復興し、現在「高浜焼 寿芳窯」として磁器をつくり続けている。

「高浜焼 寿芳窯」工場長の古田寿昭さん。 ■「高浜焼 寿芳窯」工場長の古田寿昭さん。
寿芳窯の工場内には、成形されたばかりのAVILOの特注容器が並べられていた。 ■寿芳窯の工場内には、成形されたばかりのAVILOの特注容器が並べられていた。

寿芳窯工場長の古田寿昭さんによると、このような地元産品の器をオーダーメイドでつくるのは初めての試みだったそうで「油を注ぐ口の部分と、コルク栓が入る首の部分が難しかったですね。注ぎやすく、かつ油が漏れないよう、サイズや厚みを均等にするため、何度も試作し仕上げていきました」と教えてくれた。
美しい白磁に金色で描かれた、オリジナルの図柄とオイル製造年の刻印が、プレミアムな天草100%オイルの特別感を際立たせる。
「見本として瓶のみをショールームにも展示していますが、この瓶を売って欲しいというお客様もいらっしゃいます。このようなコラボレーションで、地元天草の魅力を一緒にPRできるのは嬉しいですね」(古田さん)

オリーブ栽培を軸に、観光業や伝統産業も巻き込んで天草の魅力を全国に発信し始めた「天草オリーブ園AVILO」。その事例を参考にしたいと、視察に訪れる自治体や団体も増えてきたという。清田さんら、天草にオリーブを根付かせようと努力している方々に共通するのは、天草が誇れるいいものを、地域と一緒に作っていきたい、そんなシンプルで熱い思い。天草と同じく海に囲まれた南ヨーロッパの気風みたいな、さわやかな情熱だ。