合同会社 田島柑橘園&加工所

世界一のジュースを目指して
~家族とみかんへの愛情が育んだ美味~

☆世界を見据える小さなみかん農家

段々畑の先には、有明海が広がる。 ■段々畑の先には、有明海が広がる。

佐賀県藤津郡(ふじつぐん)太良町(たらちょう)――佐賀県と長崎県の県境に位置する多良岳(たらだけ)の麓、眼下には海苔の養殖場が一面に並ぶ有明海。山間に広がる段々畑には、太陽の光が心地よく差し込み、潮風が吹き抜ける。

緑と橙のコントラストが爽やかな香りを醸し出す。 ■緑と橙のコントラストが爽やかな香りを醸し出す。

冬――この地は一気に艶めきを増し、芳香を放つ。緑色の画用紙に、橙色の絵の具を吹き付けたような美しいコントラストと、爽やかな香りが辺り一帯を包み込むのだ。

古くから柑橘栽培が盛んだった太良町で、一家でみかん農家を営む「田島柑橘園&加工所」(以下、「田島柑橘園」)では、5ヘクタール程の敷地の中で、約15品種の柑橘を栽培している。除草剤は一切使用せず、減農薬栽培を掲げる農家とは思えないほど手入れの行き届いた畑で、ひとつずつ大切そうに果実の生育状況を確認していた、田島柑橘園 代表 田島 彰一さん(以下、「彰一さん」)に話を伺った。「私のこだわりは、なるべく“小さいみかん”をつくることです。その理由は、小さいほうが断然おいしいから。だからうちは、間引きをしないようにしています。」そう聞いて辺りを見渡すと、確かにお店に並ぶものより一回り小さいみかんが数多く実をつけていた。

田島柑橘園の皆さん ■田島柑橘園の皆さん
楽しそうに仕事をする彰一さん ■楽しそうに仕事をする彰一さん

約50年近くみかん栽培に携わっている彰一さんは、懐かしそうに若かりし頃のことを振り返った。「昔はみかんにわざと傷をつけたり、穴をあけてみたり。みかん色の色素を散布したり、ブドウ糖やクエン酸を果実や樹木に注射してみたり…。とにかくおいしいみかんをつくるために、ひたすら研究に励みました。」笑顔でみかん畑を歩き回り、色づいたみかんをもぎっては香りと味を確かめていく彰一さんの姿から、みかんに注ぐひとかたならぬ愛情を感じ取ることができた。

それから点在するいくつかの畑に案内してもらい、ひと際色鮮やかなみかんに出会った。「私はほっとする優しい香りに惚れてこの品種の栽培をはじめ、もう40年以上が経ちました。」と力説したこのみかんこそ、田島柑橘園の代名詞とも言える、スペイン原産の「クレメンティン」だ。

みかんを食べることがストレス解消なんだとか。 ■みかんを食べることがストレス解消なんだとか。
手入れの行き届いたクレメンティンの畑 ■手入れの行き届いたクレメンティンの畑

☆本場スペインを凌ぐ、クレメンティンに捧げる情熱

我が子のようにクレメンティンの樹を見守る彰一さんに、もう少し詳しい説明をお願いした。「クレメンティンは鈍感な品種です。気候に左右されにくく、気温が上がっても大きくなりすぎないんです。その代わり、とにかく甘くておいしいので虫が付きやすいんですけどね。」田島柑橘園で栽培される品種の中で、最も生産量が多いのもクレメンティンなのだ。続けて、彰一さんは興味深い話を切り出した。――「今晩はスカイプで会議があるんですよ。」

約30年前、スペインの首都マドリードを訪れた彰一さんは、本場のクレメンティンのおいしさに衝撃を受けたという。世界基準の味を目の当たりにして、このままでは世界に取り残されると、帰国後まもなく、スペイン大使館に本国との交流のお願いに飛び込みで掛け合ったそうだ。その後、様々な縁にも恵まれ、スペインへ10回以上渡航しただけでなく、反対に研修生を受け入れるほど深い交流を重ね、今ではスカイプで定期的にスペインの柑橘農家と情報交換しているのだった。

「最近は、スペインでも数人しか育てていない早生でもおいしい真っ赤なクレメンティンを栽培しようと試みているんです。」と彰一さんはこっそり教えてくれた。順調にいけば数年後、誰も見たことがない真っ赤なみかんが市場に出回るかもしれないと想像すると、わくわくしてしまう。

スペインとの交流を通して学ぶことが多いと彰一さんは語っていた。 スペインとの交流を通して学ぶことが多いと彰一さんは語っていた。 ■スペインとの交流を通して学ぶことが多いと彰一さんは語っていた。
倉庫の中には世界各国の柑橘ポスターが貼られている。 ■倉庫の中には世界各国の柑橘ポスターが貼られている。

田島柑橘園の倉庫の中に貼られたイスラエルのポスターを指差して、沸き溢れるクレメンティン愛を滲ませた。「この写真はどう考えてもおかしいんです。ほら、クレメンティンが緑色なんですよ。これではおいしくない。色がついて、香りが出てからが本物のクレメンティンなんです!」このポスターを譲ってくれたイスラエル人に、全く同じ話をしたというのだから、彰一さんのこだわりと思い入れが計り知れないものであることがおわかりいただけるだろう。

☆世界一のジュースを目指して

自分にはバックギアがないと語る彰一さんの情熱は、とどまることを知らない。本当においしいみかんをお客さまへ届けたいと、倉庫の横に加工所を併設して、本格的なジュースづくりを始めたのだった。きっかけはやはりスペインにあった。「スペインで宿泊していたホテルのレストランに、オレンジの生絞りジューサーがあったんです。そのジュースが本当においしくて。帰国して調べてみると、日本でも数台出回っていることがわかったので、すぐに購入しました。」

日本一の栄光に輝いた「セニョリータ陽子」 ■日本一の栄光に輝いた「セニョリータ陽子」

農家だからこそつくれるジュースがあると、皮を剥いて搾ったフレッシュジュースにこだわり、試行錯誤を繰り返した。その結果、みかん本来のおいしさをも凌ぐ複数品種のジュースが完成し、加工をはじめて約2年で、クレメンティンを生搾りしたジュース「セニョリータ陽子」が“新聞社が選ぶお取り寄せジュースランキング”で日本一に輝き、その名を全国へとどろかせた。

スペイン製のジューサーは自動で皮を剥いて果汁を搾り出す。 スペイン製のジューサーは自動で皮を剥いて果汁を搾り出す。 ■スペイン製のジューサーは自動で皮を剥いて果汁を搾り出す。
田島柑橘園オリジナルジューサーで果汁搾りを実演してくれた。 ■田島柑橘園オリジナルジューサーで果汁搾りを実演してくれた。

それでも彰一さんは満足しなかった。「スペイン製のジューサーは、搾れるみかんのサイズが決まっているんですよ。でも本当においしいのは、小さいみかんなんです。そこで開発したのがこれです。」と見せてくれたのは、田島柑橘園のために日本メーカーが開発した、様々なサイズのみかんを搾ることができるオリジナルジューサーだ。みかん畑で話を聞いた“小さいみかん”へのこだわりがここにもあった。今では、九州各地のみかん農家が田島柑橘園にジュース加工の依頼に来るそうだ。

九州各地の農家から持ち込まれたみかん ■九州各地の農家から持ち込まれたみかん
色鮮やかな搾りたてのジュース ■色鮮やかな搾りたてのジュース

田島柑橘園のジュースは、ネーミングにもつくり手の想いが隠されていた。スペイン原産のクレメンティンを搾った「セニョリータ陽子」は、田島家三男のお嫁さんの名前と、スペイン語で「かわいらしい」という意味の「セニョリータ」を組み合わせて名づけたそうだ。他にも、孫の「ゆきちゃん」の名前をつけた「ワンダーゆき」は、「はるか(みかんの品種)」を搾ったとは思えない白色のジュースで、「びっくりする」という英単語に、真っ白な「雪」の意味もかけて命名した。その他、「爽やかよしこ」や「おいしい太郎くん」のように、彰一さんがジュースに抱くイメージを愛する家族に重ねて表現しているのだ。

「私はクレメンティンと伊予柑をミックスした『プリンセスミツコ』が一番好きです。」と照れながら語った彰一さんの想いは、きっと奥さまにも届いていることだろう。

奥さまの田島 光子(たじま みつこ)さん ■奥さまの田島 光子(たじま みつこ)さん
この日、1日がかりでジュース加工に励んでいた ■この日、1日がかりでジュース加工に励んでいた
甘さとすっきり感が絶妙の「プリンセツミツコ」 ■甘さとすっきり感が絶妙の「プリンセツミツコ」

☆「チャレンジせんとおもしろくなか!
~田島柑橘園の更なる挑戦~

田島柑橘園ではスペインとの交流のほか、毎年東京で開かれている「国際食品・飲料展」での情報収集も欠かさず行っている。「今の世界のトレンドは、冷凍ジュースなんです。濃縮還元やストレートより、おいしいものがたくさんあって、マダガスカルの冷凍ジュースには驚かされましたよ。」彰一さんの情報感度の高さと行動力には感服させられる。すぐに冷凍ジュースに着手し、今では7品種の冷凍ジュースが完成した。そして更に上をいくように、柑橘をつかったワインやアロマにも挑戦の幅を広げている。

加工所の別室でアロマづくりにも挑戦している。 加工所の別室でアロマづくりにも挑戦している。 ■加工所の別室でアロマづくりにも挑戦している。

「地元佐賀のために、そして日本の農業ために、世界一おいしいジュースを目指して頑張ります。ぜひ世界中の方にうちのジュースを飲んでいただきたいです。」という田島夫妻の想いを乗せて、“艶めくクレメンティン”はクルーズトレイン「ななつ星in九州」の中で世界中の旅人に心温まるおもてなしを提供している。

クレメンティン畑でにっこり笑顔の田島夫妻 ■クレメンティン畑でにっこり笑顔の田島夫妻
「ななつ星」の車内で煌くクレメンティン ■「ななつ星」の車内で煌くクレメンティン