天空の森・忘れの里 雅叙苑

旅――“忘れもの”を探して日本のふるさとへ

☆人間のために存在する理想郷「霧島」


雲海がたなびく神秘的な霧島連山 ■雲海がたなびく神秘的な霧島連山

霧にけむる海の中、美しい緑の島がぽつりとうかんでいる。その島の大地は、白く清らかで天降(あまくだ)りの地に相応しい荘厳な空気が漂よっていた――。

霧島連山の第二峰・高千穂峰(たかちほのみね)は天孫降臨伝説の地として言い伝えが残る。火山噴出物でできた真っ白なシラス台地は、日本神話の神様ニニギノミコトが天より舞い降りるに相応しい土地だったのかもしれない。その台地は長い年月を重ね、サツマイモをつくりだし、芋焼酎をつくりだし、そして数々の偉人を輩出していった。神の物語が遺るこの霧島に今回の物語の舞台はある。

☆実在する地上の楽園「天空の森」

JR肥薩線の霧島温泉駅から車で20分ほど山道を走ったところに、“地上の楽園”は実在する。約60ヘクタール(東京ドームおよそ13個分)の広大な敷地の中に、たった5つのヴィラで構成される究極の温泉リゾート「天空の森」。まさに“天孫降臨伝説”という言葉が脳裏によぎる、現代の理想郷だ。

“大宇宙(おおぞら)の入り口”と呼ばれる「天空の森」の頂上から見渡す霧島連山 ■“大宇宙(おおぞら)の入り口”と呼ばれる「天空の森」の頂上から見渡す霧島連山 

360度視界を遮る物のない大自然の中で、風を感じ、鳥の声を聴いて、季節の匂いをかぎ、大地の恵みを愛でる。五官で五感を研ぎ澄まし、自分自身を解放し、もう一人の自分に出逢う場所。この「天空の森」で時を過ごした旅人の中には、涙を流してこう語る人もいるという。
――「忘れものがここにあった。」と。

「天空の森」主人(あるじ) 田島 健夫さん■「天空の森」主人 田島 健夫さん

「幸せってなんだろうと考えたときに、まず“幸せを感じる場所”が必要だと考えました。それは大地から切り離された、限りなく天に近い、宇宙に近い場所。そこで自然と向き合い、人間が本来のヒトに戻ったとき、大切なものに気付くんでしょうね。」と語ってくれたのは、「天空の森」の主人(あるじ)、田島 健夫(たじま たてお)さん(以下、「田島社長」)。広大な野山を10年以上の年月をかけて、自ら開墾し、森を整理し、温泉を掘削したという創設秘話を聞くと、誰もが感嘆するだろう。ここまでに田島社長を突き動かした想いとはどのようなものだったのだろうか。


「阪神淡路大震災で被災された方から言われたんです。『何十年もかけて集めた大切なものを、わずか20秒で失ってしまった。幸せってなんだろうね。人間ってなんだろうね。』と。そのとき、豊かさと幸せが違うことに気づきました。だから幸せを感じる場所をつくらないといけないと思ったんです。」
一人の挑戦者によって築き上げられた地上の楽園で、旅人が見つける“忘れもの”とはいったいどのようなものなのだろうか。

ヴィラ「天空」 ■ヴィラ「天空」
ヴィラ「茜さす丘」 ■ヴィラ「茜さす丘」

☆日本のふるさとへの時空旅

茅葺屋根の趣深い客室 ■茅葺屋根の趣深い客室

「天空の森」を語るのになくてはならないもう一つの宿がある。霧島市の中心部を流れる天降川(あもりがわ)に面して立ち並ぶ温泉宿の中に、周囲の景色に溶け込むように奥ゆかしく佇む温泉宿。「この先にわとり優先」と書かれた看板に微笑みながら、ゆっくりと坂道を下ると、まるで昔話の世界に迷い込んだかと錯覚するような、懐かしい空間が広がっている。茅葺(かやぶき)屋根の家屋、囲炉裏から立ちこめる煙のにおい、にわとりの鳴き声。五感で日本のふるさとを感じることができる宿――「忘れの里 雅叙苑」だ。田島社長が「天空の森」が完成する30年以上前に開業した宿である。


囲炉裏の炭がはじける音が心地よい ■囲炉裏の炭がはじける音が心地よい
敷地内を自由ににわとりが行き交う ■敷地内を自由ににわとりが行き交う

水屋(台所)には、昔ながらの営みがそのまま残る ■水屋(台所)には、昔ながらの営みがそのまま残る

1970年代初頭、高度経済成長真っ只中にあった日本では、凄まじいスピードで古き良きものが壊され、どんどんと新しいものがつくられていた。そんな時代に、「忘れの里 雅叙苑」は、近所の茅葺屋根の民家を移築し、郷土に伝わる素朴な料理を竹でつくった器で提供するといった、鹿児島の田舎では当たり前の生活を旅人に提供する、時代の流れに逆らった宿を築いたのだ。「観光産業とは地域文化産業であり、旅館経営とは地域経営なんです。」と語る田島社長の真意を紐解くとこういうことだろう。「観光とはその土地に根付いた生活文化を体感することであり、旅館の使命は地域に煌く文化を発信することにある」と。まさに「忘れの里 雅叙苑」は、地域文化のショーウィンドーともいえる宿なのである。

水屋(台所)には、昔ながらの営みがそのまま残る 水屋(台所)には、昔ながらの営みがそのまま残る

女将の田島 悦子さん  
■女将の田島 悦子さん

「昨日を忘れ、今日を忘れ、明日を忘れ・・・何もかも忘れてゆっくりとお過ごしいただき、みやびやかに輝く空間の中で、家族や大切な人のことを思い出してほしいという想いが込められています。」と、宿名の由来を教えてくれたのは、女将の田島 悦子さん。(以下、「田島女将」。)

かまどで炊いたご飯と、地域の食材を手間ひまかけてこしらえた料理に舌鼓を打ち、茅葺屋根の下で温泉にゆっくりと浸かる。そんな当たり前の営みの中で、旅人は時空を飛び越え、先人が築いた生活に触れることで、新たな自分にめぐり逢うことができるのだろう。

源泉かけ流しの温泉に浸かって、ふるさとに思いを馳せるのもよし ■源泉かけ流しの温泉に浸かって、ふるさとに思いを馳せるのもよし

「日本の古き良きものをずっと残していきたいと思っています。そして、『日本の原風景がまだここにある』ということを世界に向けて発信していきたいですね。」と宿の未来を語る田島女将の言葉に、2015年1月に「忘れの里 雅叙苑」がフランスの権威あるホテル・レストラン協会「ルレ・エ・シャトー」に九州で初めて登録されるという栄誉に輝いた理由を見つけたのだった。


秋には「忘れの里 雅叙苑」を紅葉が美しく彩る
秋には「忘れの里 雅叙苑」を紅葉が美しく彩る ■秋には「忘れの里 雅叙苑」を紅葉が美しく彩る

☆究極の手間ひまで築かれた「天空の森」

話を「天空の森」に戻そう。「天空の森」は、「忘れの里 雅叙苑」と比較して、“超高級温泉宿”とメディアに紹介されることがある。しかし、この宿を一言で表現するのならば、「究極の手間ひまで築かれた宿」という言葉が当てはまるだろう。ゲストハウスもほとんどが手づくりだという。例えば、テーブルやイス、天井に吊るされたシャンデリアは、開墾時に集めた個性的な木材を使ってつくられたもの。そして特筆すべきは食にある。「天空の森」では、実に食材の80%以上が自給自足で賄われている。敷地内に点在する自家農園では、常時30種類以上の野菜類を栽培しており、すべて有機栽培、無農薬という徹底ぶりだ。

敷地内のいたるところに広がる自家農園 敷地内のいたるところに広がる自家農園 ■敷地内のいたるところに広がる自家農園

驚きはまだ続く。「天空の森」と「忘れの里 雅叙苑」の中間点に位置する、「にわとり牧場」と呼ばれる養鶏場では、複数種の地鶏が平飼いされており、鶏肉も卵も自ら生産しているのだ。「にわとりのエサは、自家農園で穫れたお米と野菜が中心です。そこから、鶏糞と落ち葉を混ぜて堆肥をつくり、それを使ってまた野菜を育てます。」と田島社長。鶏にも究極の手間ひまがかかっているのだ。

にわとり牧場では約900羽のにわとりが元気に走り回っている にわとり牧場では約900羽のにわとりが元気に走り回っている ■にわとり牧場では約900羽のにわとりが元気に走り回っている
産みたての卵はすぐに「天空の森」や「忘れの里 雅叙苑」の食卓に並ぶ ■産みたての卵はすぐに「天空の森」や「忘れの里 雅叙苑」の食卓に並ぶ

さらに田島社長は面白い話をしてくれた。「うちにとって“プリン”は、“リトマス試験紙”と同じ役割を果たすんですね。要するに、卵の味がおかしくなったら、循環サイクルのどこかに歪みが生じているという警告なわけです。」自然の摂理に従った、実に理にかなった考え方である。


☆地上の楽園で旅人が見つけた“忘れもの”

頂上にそびえる神木 ■頂上にそびえる神木

――“地上の楽園”に身を置くと五感が蘇る。神木と崇められる椎の木の前で風の音を感じ、大自然の懐に潜り込むと季節に匂いがあることを再確認する。木々でつくられたインテリアから生命の温もりを受け取り、穫れたての野菜を食せば大地の味に気づく。そして、夜のとばりに包まれながら手が届きそうな満天の星空を眺めると、数億光年先から届く光をとらえることができる。――


喧騒の世界で無くしかけた、本来ヒトが持つ本質的なやさしい心を、「天空の森」は呼び覚ます。旅人は“本当の幸せ=忘れもの”を知り、ぽつっと口を開く。――「ごめんね」。――「ありがとう」。
「今まで難儀をかけてごめんね。」「私がいるのはあなたのおかげです、ありがとう。」という心の底から湧き溢れる偽りの無い言葉を伝える相手は、一緒に人生を旅してきたパートナーだ。旅人たちは、“幸せを感じる場所”で豊かさと幸せの本当の意味を知り、旅の途中で無くしかけた“忘れもの”を見つけ、新たな人生への第一歩を踏み出すのだろう。

「天空の森」が幸せのショーウィンドーでありたいと語る田島社長 ■「天空の森」が幸せのショーウィンドーでありたいと語る田島社長

2013年、クルーズトレイン「ななつ星in九州」が誕生した。九州の魅力を世界に発信するこの列車に共感した田島夫妻は、「天空の森」と「忘れの里 雅叙苑」で、「ななつ星」のお客さまを迎えるパートナーとなることを決めた。「ななつ星」は“幸せの国”に旅人をいざなう乗り物なのだと田島社長は言う。「私たちは未完成ですが、これからもっといいものへ成長していきます。もっともっと幸せの方向へ近づいていき、私たちが幸せのショーウィンドーになるんです。ロケットに乗らないと宇宙には行けないし、海を渡るためには船が必要。幸せの国へ行くための乗り物が、九州の宝物を集めた『ななつ星』なんです。」

九州の美しい風景や温泉、優しい気持ちが育むおもてなしの心は、海外からもお客さまを呼ぶことができる。九州アイランドには世界が必要とする宝物がまだ多く眠っていることを信じ、“幸せの国”は進化を続ける。