硝子工房 生

ガラスの中に咲き誇る、煌めく雪の花

☆ななつ星に咲く雪の結晶

「ななつ星」で煌めく雪花ガラス ■「ななつ星」で煌めく雪花ガラス

冬―玄界灘を越えた季節風が冷たい空気を運び、福岡にも雪が舞う。小さな雪の粒が華麗に踊るように、街をうっすらと白く染める。そんな情景を連想させるガラス細工が、「ななつ星」の車内で旅する者を魅了する。ガラスの中に浮かぶキラキラと輝く繊細な模様は、まさに空中を舞う雪の結晶のような美しさを放つ。ガラス細工ならではの凛とした表情とは裏腹に、不思議と柔らかさや温もりも感じることができる。その名は「雪花ガラス」――。

☆Made in Fukuokaのガラス工芸

福岡市早良区。福岡の繁華街が一望できる山間にひっそりと佇む小さな工房から、灼熱の砂漠のような熱気が漂い、金属の擦れる音が響く。
「硝子工房 生 ~Say~」。その傍らには、キラキラと煌めく「雪花ガラス」が展示されていた。

山間に佇む「硝子工房 生 ~Say~」 ■山間に佇む「硝子工房 生 ~Say~」

雪花ガラスをつくるために開業したというこの工房では、身長186cmの大きな男性が作品づくりに励んでいた。彼が円筒形の金属棒に息を吹き込むと、先端についた真っ赤な火の玉は、魔法をかけられたように姿を変える。ガラスを熱し、息を吹き込み、形状を整える。休むことなく黙々と、千数百度に熱されたガラスを加工していく姿は、まさに職人技だ。

黙々と作業する青木耕生さん ■黙々と作業する青木耕生さん
中間層には2種類のガラスの粉をまぶす ■中間層には2種類のガラスの粉をまぶす

「硬質のガラスで、軟質のガラスの粉を挟み込んだ、サンドイッチのような三層構造のガラスで出来ているのが特徴です。本来、性質の異なるガラスを組み合わせることはタブーなのですが、発想を転換応用して生まれたのが、この雪花ガラスです。」そう語ってくれたのは、ガラス工芸作家の青木 耕生(あおき こうせい)さん。強度が違う2種類のガラスは、熱膨張率や収縮率が異なることから、ガラスをゆっくりと冷やす過程で、中間層に細かな亀裂が生まれ、まるで雪の花のような模様が次々と生まれてくる。つまり、最初からこの繊細な雪花模様が入っているわけではないのである。

「ガラスを加工するときは1,300℃くらいです。完成した作品を約500℃の徐冷炉(じょれいろ)という保管用の窯に入れて、一晩かけて冷ましていきます。仕事を終えて、徐冷炉の中の温度を1時間に50℃ずつくらい下げていく。そうすると、ガラスが冷えていく過程で、中間層にヒビが入るんです。その瞬間、『キンッ』という音が響き、雪の結晶のような模様が、ぱっと浮かび上がるんです。」青木さんが1日中作品づくりに専念して、出来上がるのは20個程度だそうだ。なんとも手間ひまのかかる作業であるにも関わらず、青木さんは少年のような眼差しで丁寧に説明してくれた。

この雪花ガラスは、使っていくうちに更にヒビが増えていき、中には3年目にして、やっと花開くものもある。使いながら、世界にひとつだけの模様を“育てる”楽しさも、雪花ガラスの魅力のひとつなのだ。

☆ガラスを溶かすほどの熱い想い

真剣な面持ちで「雪花ガラス」を語ってくれた ■真剣な面持ちで「雪花ガラス」を語ってくれた
今後は福岡産の道具にもこだわっていきたいそうだ ■今後は福岡産の道具にもこだわっていきたいそうだ

青木さんが「硝子工房 生 ~Say~」を開業したのは2005年3月のこと。工房名の由来は、自分の名前から一文字をとって。スペルを“Say”としたのは、自分の作品が人づてに広まって欲しいという願いが込められているそうだ。元々、透明なものが好きだったという青木さんは、大学を卒業後、ガラスメーカーに就職した。ガラス細工の魅力にどんどん引き込まれ、いつかは自分の工房を持ちたいと夢見ていたとき、雪花ガラスのヒントとなる作品に出会ったという。「上司がブルガリアから仕入れたガラス細工を持ってきて、『これの作り方がわかるか?』と宿題を出されました。その作品こそが、まさに三層構造の美しい模様のガラスだったんです。初めて見たときの感動は今でも忘れません。」この出会いが、一人の職人の人生を変えることとなった。

青木さんの雪花ガラスにかける情熱は、原料選びからも見て取ることができる。“ガラス=鋭利で冷たい”というイメージを払拭したいという想いから、雪花ガラスは温かい飲み物にも使えるようになっている。その秘密は、10種類以上の薬品の粉を独自で調合した原料にあった。この調合表は企業秘密ということで、詳しく教えてもらうことはできなかったが、ホウケイ酸ガラスという実験器具等に使われるガラスが使われているとのことだ。耐化学性、耐熱性、耐衝撃性に優れた雪花ガラスは、細部にまで作家の想いが詰まった逸品であることが伝わってくる。

ガラス細工とは思えない温もりが「雪花ガラス」の魅力だ。 ガラス細工とは思えない温もりが「雪花ガラス」の魅力だ。 ■ガラス細工とは思えない温もりが「雪花ガラス」の魅力だ。

福岡の地に、温かい雪の結晶を降らせ、見る者に感動を与える青木さんは、工房を立ち上げて10年の節目を迎えた。「硝子工房 生」の今後の展望について質問を投げかけてみると、「九州には焼物の文化が根付いていますが、福岡にはガラス細工もあるということを発信していきたいと考えています。そのためにも、まずは『雪花ガラス』を好んで使ってくださる方が人づてに少しずつ増えていってくれたら嬉しいですね。」という答えが返ってきた。青木さんの想い、それは、作品を通して人との出逢いを、そして日常に鮮やかな彩りを創出したいということなのだろう。

快晴の空に雪景色が広がる ■快晴の空に雪景色が広がる

「雪花ガラス」を手に取った者は皆、必ず同じ行動をとる。それは、ガラスを空に、光に透かして見ること。多くの方にガラスを覗いていただき、その先にある温かい雪景色を体感してほしい。