福岡県うきは市

フルーツとおもてなしのまち「うきは」

☆郷土の誇りを「ななつ星」へ

みずみずしい、うきはのフルーツ ■みずみずしい、うきはのフルーツ

福岡県の南東部に位置する、人口3万人ほどのまち、うきは市。屏風を広げるように連なった耳納連山(みのうれんざん)と、雄大に流れる筑後川に囲まれた、自然環境に恵まれた土地。そして、色彩豊かなまち。生命の息吹を感じるイチゴの赤、自由をうたう柿の橙、慈しみ深い桃のピンク、神秘的な力を発するぶどうの紫。そう、うきは市は年間を通して多様なフルーツが収穫される、果樹栽培が盛んな“フルーツ王国”なのだ。

「ななつ星」を盛大に歓迎する地元の方々 ■「ななつ星」を盛大に歓迎する地元の方々

豊かな実りに恵まれたまちの人々は、実に心も豊かである。2013年、「ななつ星in九州」の運行開始当初から、市民の湧き溢れる“おもてなしの心”が、九州をめぐるクルーズトレインの旅を盛り上げた。うきは市を横断するように東西に延びるJR久大本線沿線に、地元の特産品や手づくりの旗を持った多くの市民が、わがまちを通過する「ななつ星」の乗客に歓待の心を伝え続けた。その無償の温もりは窓越しに車内に伝わり、思わず涙をこぼす旅人も少なくなかった。今では、郷土の誇り“フルーツ”と“おもてなし”を世界に発信するため、「ななつ星」は同沿線の「うきは駅」に停車し、車内で旬のフルーツがふるまわれている。

「ななつ星」を盛大に歓迎する地元の方々
「うきは駅」でフルーツを届けるうきは市長 ■「うきは駅」でフルーツを届けるうきは市長

☆美しい水と肥沃な土地、慈愛の心が育んだ、こだわりのフルーツ

“果樹栽培に適した環境条件”とは、なんだろうか。美しい水、肥沃な土地、太陽の恵み、温暖な気候 ― 幾多の条件が挙げられる。しかし、“感動を与えるフルーツ”の条件となると、それだけでは何かが足りない。耳納連山の麓に広がる果樹園をめぐり、その答えを探した。

薪ストーブ ■薪ストーブ

「うちはぶどうと柿を専門に栽培しています。」そう答えたのは、親子三代で果樹園を営む、「中村柿農園」の中村祐介(なかむらゆうすけ)さん。ビニールハウスに足を踏み入れると、懐かしさと無骨さを兼ね備えた暖房装置が佇んでいた。今の時代には珍しい“薪ストーブ”だ。「うちは柿も育てているので、廃材を何かに活用できないかと考えて生まれたアイデアです。薪ストーブでハウスを加温することで、地球にやさしいぶどうが実ります。真冬には2時間置きに薪をくべに来なければならないので大変ですけど、収穫の喜びは格別です!」中村さんの爽やかな笑顔から、ぶどうにかける人並みならぬ愛情が滲みでていた。

「同期入社のぶどうの樹なんです」と嬉しそうに語った中村さん 「同期入社のぶどうの樹なんです」と嬉しそうに語った中村さん ■「同期入社のぶどうの樹なんです」と嬉しそうに語った中村さん
うきは果樹の村 やまんどん 末次さん ■うきは果樹の村 やまんどん 末次さん

「イチゴは何よりも水が命です。ここは、阿蘇が源流と言われる湧水がこんこんと湧き出ているので、甘く美しいイチゴが実をつけるんです。」と力強く語ったのは、「うきは果樹の村 やまんどん」の末次淳一(すえつぐじゅんいち)さんだ。ここで穫れたイチゴを見ると、誰もが目を丸くする。白桃を連想させるような、なんとも珍しい桜色のイチゴ「あわゆき」という品種を栽培しているのだ。うきはのまちを盛り上げたいと、栽培が困難な稀少品種に数年前からチャレンジしているという。「うきはのフルーツが世界中から注目されるように、新たな品種の栽培にも積極的に取り組んでいきたい。」と誇らしげに語る姿からは、郷土を愛でる熱い想いを感じた。

湧水がこんこんと湧き溢れる ■湧水がこんこんと湧き溢れる
彩り豊かなイチゴ ■彩り豊かなイチゴ

これらのフルーツは、実際に「ななつ星」の車内で世界中から集まった乗客にふるまわれ、笑顔と驚きを与えたことを後述する。“感動を与えるフルーツ”とは、つくり手の慈愛の心、そのものなのかもしれない。

☆姿を変えた芳醇果実

ネコノテシャ 髙浪さん。 ■ネコノテシャ 髙浪さん。カフェは日曜、月曜、火曜のみ営業。

フルーツの食べごろは、はかなくも短い。如何ともし難いこの想いを解決すべく、機知に富んだアイデアにたどり着いた人物を訪ねた。

JRうきは駅のすぐそばにひっそりと佇む古民家を改築したカフェ「ネコノテシャ」を営む、髙浪薫(たかなみかおる)さんだ。長崎県出身の彼女は、結婚を機にフルーツ王国へ移り住んだ。「うきはの芳醇なフルーツにまず感動しました。この美味しさをもっと多くの人に知ってもらいたいと思って・・・」そこで出されたのは、色鮮やかなジャム。傷がある果実や熟れ過ぎた果実を、日持ちするジャムにすることで、遠くの人にもうきはの魅力を届けたいと、9年ほど前からジャムづくりを始めた。今ではうきはで穫れたフルーツを組み合わせて、年間100種類ほどのジャムをつくっているそうだ。

カフェは日曜、月曜、火曜のみ営業。
うきはの素材をつかった美しい3層のジャム ■うきはの素材をつかった美しい3層のジャム
「酢造発酵場&ビネガーカフェ・スー」大山さん。 ■「酢造発酵場&ビネガーカフェ・スー」大山さん。旬の桃を発酵させていた。

このまちには、他にも異彩を放つお店がある ― 「酢造発酵場&ビネガーカフェ・スー」。昔懐かしい民家の外観からは想像もできないような、異空間が店内には広がっている。地元の果実を加工して、果実酢や調味料を製造しているこの店の代表の大山英章(おおやまひでゆき)さんに話を伺った。「私の実家は宮崎県で黒酢屋を営んでいました。いつかは独立して果実酢をつくってみたいと、約1年をかけて日本全国で適所を探し、たどり着いたのがうきはでした。」この地に到った経緯もあわせて質問した。「年中を通して多様な果実が穫れ、きれいな井戸水が湧いていました。気候環境も申し分ない。ここしかない!と決断しました。」素材の選定も大山さんが独自で行うという。「うきはの農家は農業技術が高く、協力的な方ばかりです。その方々が汗水流して育てた果実を、大切に加工して、多くの人に広めたいです。」と、地域を、そして生産者と素材を思いやる、大山さんの言葉から、果実のような優しい人柄が伝わってきた。

旬の桃を発酵させていた。
店内には多様な果実酢が並ぶ ■店内には多様な果実酢が並ぶ

☆心温まるまちを想う・・・

ななつ星に元気に手を振る「山春保育所」の園児 ■ななつ星に元気に手を振る「山春保育所」の園児

「ななつ星」の運行開始以来、列車が通過するたび欠かさず手を振り続けている子どもたちをご存知だろうか。「うきは市立 山春保育所」の園児たちだ。季節ごとに趣向を凝らした、実直な園児たちの“おもてなし”は、今や「ななつ星」を語る上で欠かすことのできない旅の一部となり、その光景を目にした者は必ず胸を熱くする。

このまちを包む優しい風はどこから吹くのだろうか。人々が抱く慈愛の心はどこから湧き出ているのだろうか。自然と人が調和した優しいまちにたわわに実ったフルーツと、人々の心の温かさには、親和性があるのではないかと、探究心をくすぐられる、魅力溢れるまちだ。